VOL.2 I’M A Farmer. 和束町の自然の恵みが生み出す宇治銘茶を、世界へ(後編)

2025.03.06

“IMA”をつくる人、味わう人。IMAに関わるさまざまな人たちとの物語をお伝えするIMA PEOPLE。
第二回は、日本のオーガニック茶のパイオニアでありIMAのお茶の生産者でもいらっしゃる中井製茶場の会長、中井通夫さんとの対談の後編。7年もの歳月をかけて作り上げたオーガニック宇治茶の魅力と、その世界展開について語ります。

中井通夫さん:有限会社中井製茶場 会長
松本綾:IMAファウンダー

350年続く茶農家に生まれ、現在。

松本: 中井家は古くからお茶作りをなりわいとしてきた家系なんですよね。

中井: ええ。中井家として茶栽培が始まったのは記録では元禄15年、赤穂浪士の討ち入りの時代です。今で約350年続いていて、現在は私が会長で、息子が社長として7代目を継いでくれています。

松本: 和束町自体は鎌倉時代からお茶作りをしてきた歴史があるので、記録よりももっと前からの可能性もありますよね。お父さんはご両親から、お茶栽培を教わったんですか?

中井: そうです。小学校3、4年生くらいから、毎日学校から帰ってきては草抜きなどを手伝っていました。畑に行くとおやつがもらえるので、それに釣られて行っていましたね(笑)。畑は毎日手入れが必要で、家族総出でした。中学を卒業すると和束の農業高校に通い、お茶の座学の知識を全てそこで学びました。当時は長男長女が後継ぎと決まっていた風潮があったので、幼い頃から自然と茶農家として生きていく覚悟がありましたね。

松本: 現在はお父さんは会長となられて、息子さんが後を継がれ、家族みんなで運営されていますね。

中井: そうですね。一方で、和束町の茶農家は私が小さい頃は700軒ほどありましたが、今では150軒ほどに減っているという現実があります。正直、どこも後継者問題は深刻です。専業でやっていける農家は少なくて、多くはサラリーマンとの兼業農家になっていますね。私たちも忙しい時期には、日本中のみならず海外からも「援農」といって期間限定で手伝いに来てくれる方々に助けてもらっていますよ。

松本: 後継者問題は全国共通の農家の悩みですね。



中井家の味。和束町の自然が育む銘茶。

松本: では、次に和束のお茶の特徴を教えてください。

中井: 和束は、日本茶の中でも特に高品質な茶葉が育つことで知られています。その理由は、豊かな自然環境にあります。例えば、霧が頻繁に発生する山に囲まれた和束川周辺の気候条件は、茶葉に適度な湿度を与え、紫外線の影響を和らげるため、茶葉が柔らかく、テアニンの含有量が高いまま成長するんです。

松本: その結果、和束の茶葉は特有の甘味と旨味を持つわけですね。地域の気候や土壌によってお茶の特徴は変わりますよね。

中井: その通りです。例えば静岡は太平洋からの風で温暖な気候であり、富士山の火山灰の土壌が水捌けに優れています。九州も温暖な気候であるのと、例えば鹿児島の土壌は白砂でこれも水捌けが良いという特徴があります。そして九州のように暖かい土地ではお茶の生育が早く、年に4回、5回と収穫することができるんです。

松本: 和束では5月の新茶、6~7月の二番茶、秋の番茶と3回収穫していますね。

中井: そうです。和束のお茶は収穫回数が少ない分、栄養たっぷりでうまみの濃いお茶ができます。また、和束の土壌は粘土質の赤土で粘り気があり、冬に肥料を与えると土に栄養をしっかりと蓄えることができます。この土壌の特性により、茶葉は豊富な栄養を吸収し濃厚な風味をもち、味良し香り良しの宇治茶として昔から銘茶とされてきました。

松本: なるほど、和束の茶葉の品質が高い理由がよく分かりました。それで茶源郷の和束町と呼ばれているんですね。「宇治茶」として全国に名前が広がっていますが、宇治市ではなく和束町が主要生産地なんですよね。

中井: そうです。和束町をはじめ、宇治市周辺の地域でお茶の栽培が盛んです。昔は宇治市にもお茶の栽培地域がありましたが、今では宅地開発が進み、茶農家はほとんどありません。和束には大きな問屋がなかったので、商業都市である宇治市の問屋を通して、「宇治茶」として全国に販売されているという経緯があります。

世界に広がるオーガニックの宇治銘茶。

松本: 中井家のオーガニック茶は世界にも認められ、アメリカやドイツ、イタリアなど欧米へ輸出されていますよね。

中井: はい、日本の抹茶は海外でとても人気がありますよ。特に砂糖を加えた冷たい抹茶ラテや、抹茶アイスクリーム、さまざまな抹茶スイーツに使用され、健康志向も相まって非常に好評です。

松本: さらに今、お父さんはタイで日本茶の製造指導もされていますね。

中井: そうです。9年前にタイの大手飲料メーカーから「オーガニックの抹茶づくりに本気で取り組みたい」と依頼されたのが始まりです。タイでも抹茶ブームが起きています。それ以来、チェンライという町にある大きな畑で、夫婦で住み込みながら指導をしています。

松本: 私がお父さんとお母さんに会いにチェンライを訪問した際、現地の若い従業員たちが「おとうさん、おかあさん」と親しみを込めて呼んでいたのが印象的でした。

中井: 現地のみなさんはとても親切で、多くの若い従業員たちと毎日切磋琢磨しながら楽しく過ごしていますよ。

勉強と経験、挑戦、そして夢。未来。

松本: 77歳の今も毎日パワフルにオーガニック茶栽培に取り組まれていますが、振り返ってどう感じていますか?

中井: オーガニック茶の需要が世界中で高まっている今、諦めずに続けてきて本当に良かったなと。日本では息子や娘、昔から一緒に働いてくれてる社員たちが一生懸命頑張ってくれているので安心ですし、タイでの仕事も意欲的に取り組んでいます。人生は勉強と経験、挑戦、そして夢を持つことが大切です。オーガニック栽培に切り替えるには最低4年は収穫量が減る覚悟が必要ですが、和束町でも少しずつオーガニックに切り替える若い人たちが増えているのはうれしいです。

松本: オーガニック栽培が国内外に広がってきたのは、とてもうれしいことですね。中井家の皆さんが一生懸命作ってらっしゃる、ピュアで本当に美味しいお茶を世界中に届けるために、IMAも精一杯頑張ります。

中井: IMAのような新しいお客さんに向けた取り組みも、とても大事です。私たちも未来に向けて挑戦したい。ですが、やはり信頼関係がないとそういう取り組みはできません。IMAのように情熱をもってオーガニック茶を世界に広めてもらえることは、とてもうれしいことなのです。販売先は大小関係なく、真にこのお茶の良さを理解してくれる信頼できるところに売ってほしいですね。

松本: はい。中井製茶場のオーガニック栽培の苦労や歴史をこうして教えて頂き、実際に畑や工場で働かれている皆さんのお姿を拝見しているので、その思いやお茶の正しい情報を伝える為にすべて現地に直接出向いて契約しています。私は茶農家では無いですが、私が出来ることで、世界中にこの素晴らしいお茶をもっと知ってほしいと思っています。

みんな仲良く、長く続けていくこと。

松本: お父さん、今後の夢は?

中井: 無理をせず、利益を追求せず、みんな仲良く会社を長く続けていきたいです。タイでも皆と仲良く楽しくやっていますよ。

松本: 中井家の皆さんは穏やかな性格ですよね。

中井: そうですね。私は妻とも喧嘩したことがありませんし、兄弟とも喧嘩したことがありません。私たちの子どもたちも仲が良く、家族全員で協力してお茶を作っています。従業員も長く勤めてくれている人が多く、これからも和気あいあいと続けていきたいですね。

松本: そんな穏やかな暮らしにぴったりの、お父さんの好きなお茶の飲み方を教えてください。

中井: 毎朝、自家製の緑茶を飲んでいます。抹茶にする少し前の甜茶に熱湯をかけて飲むのが好きです。水出しでも美味しいですよ。タイにもティーバッグにして持っていっています。海外でもお客さまが来たときには抹茶を立てることが多く、そのほろ苦い味わいが好まれています。自慢じゃないですが、私は入院したことがないんです。緑茶のカテキンなどの健康効果も一因かもしれないと思っています。

松本: お父さん、いつまでも元気でいてください。今日は貴重なお話をありがとうございました。

中井: こちらこそ、ありがとうございました。これからも皆さんに喜ばれるお茶を作り続けていきます。

長い歴史と豊かな自然に育まれた和束町・中井家のお茶。7年の歳月をかけてオーガニック栽培を成功させた中井通夫さんの努力と情熱は、今、その確かな味と品質とともに愛され、世界中に広がりつつあります。そんな中井家とともに、オーガニック日本茶の魅力をさらに広く、世界へ届けていくために、これからもIMAの取り組みにご注目ください。